思い込みを取り払い、人生を切り拓く。
「不安やストレスというのは、思い込みや固定観念、常識などといったものから生まれてきます。本当はたくさんの選択肢があるのですが、こうだと思い込んだらそれしか見えなくなってしまい、自分で自分を縛ってしまうような状態になる。そのため、固定観念を取り除くことによってストレスを感じにくくなります」。
こう話すのは大泰寺の住職、西山十海さん。かつては地域の方々の相談場所や子どもたちの遊び場として人々の生活の中にあったお寺をもう一度身近なものとして感じてもらいたいと、お寺での体験や宿泊などを運営しています。西山さんは、坐禅をすることは、思い込みを取り払ってストレスを緩和するだけでなく、さらに自分自身の可能性を広げることにも繋がるといいます。
「固定観念や常識を取り払うということは、ビジネスであれば新しい分野を開拓することになりますし、アートや音楽も固定観念を打ち破ることで進化してきました。たとえば私はジャズが好きですが、ジャズはもともとオーケストラで演奏するようなダンスミュージックだったんです。それを、個人の表現としてやってもいいのではないかということで形を変えてきました。禅というのは、ストレスをなくして心をコントロールすることにとどまらず、自分の人生を開拓するという意味でも非常に役に立つものなので、ぜひ体験してもらいたいですね」。
片手で手をたたく音
坐禅体験は約1時間。午前6時半に大泰寺禅堂に入り、坐禅をする目的や、足の組み方、手の結び方、呼吸の仕方などを教わります。1回15分の実践を3回繰り返し、途中で気になったことがあれば回の終わりに質疑応答をします。徐々に慣れていき、3回目には禅僧が悟りを開くために行う「禅問答」を体験。
「禅問答というのは、たとえば両手で手をたたくと『パンッ』と音がします。では、片手で手をたたくとどんな音がするでしょうか?というのを聞かれるんですね。坐禅をするとよく参加者の方から『無になれません』と言われるのですが、実は修行僧もまったく無になっていなくて、禅問答と頭の中で格闘しながら、もやもやした状態で座っています」。
修行僧も頭の中ではもやもやしながら座っているというのは、少し意外だったのではないでしょうか。一度方法を教われば、自宅などで一人で行うこともできます。
「一人でやる場合も自然に近い場所の方がいいと思いますし、多くの方がそう言われています。坐禅をすると、感覚が研ぎ澄まされるというか、どこにも力点を置かないニュートラルな状態だからこそ、いろんな情報が自分のなかにすっと入ってきます。たとえば、その日の太陽の昇り方でも光の量や影が変わると思うのですが、何かほかのことに集中していると気づかずに一日が終わってしまいます。けれど、心の状態がニュートラルであれば、明るさの変化や風の変化といったものがすっと入ってくる気がしますね。それを感じようとすると、自然の中の方がいいと思います」。
大泰寺では、坐禅のほかにも写経やサウナなどの体験や宿泊もしています。前日はサウナとお寺での宿泊を満喫し、翌朝に坐禅をして穏やかな気持ちで帰路に就くというのはいかがでしょうか。もちろん、その足で観光に出かけるのもよし。周囲の見え方が変わり、いろんな発見や気づきのある面白い旅になりそうです。