静けさのなかで、研ぎ澄まされていく感覚
太田川が創り出した独立丘陵の中ほどに佇む、開創1200年の薬師霊場「大泰寺」。周囲は森林や竹林に包まれ、県道から少し脇道を進んだだけとは思えないほど静かな空間。まるで森の奥に入り込んだような特別な雰囲気があります。大泰寺は、比叡山の開祖である最澄が開いた薬師霊場。その歴史的な背景から、多くの古い仏像と、水墨画や庭園を両方鑑賞できるという他ではあまり見られない特徴をもつ珍しいお寺です。
そんな大泰寺で、「お寺の敷居を下げて、もっと多くの人に親しんでもらいたい」と宿泊を始めたのが住職の西山十海さん。お寺に気軽に宿泊できること、それだけでも特別な経験になりそうですが、普段はなかなか直接尋ねることができないようなお寺に関する疑問を聞けることが一つの良さだと話します。
「たとえば木魚をたたく理由など、仏事の際は気になっても聞けないじゃないですか。私たちのベースになっている思想であったり、文化や習慣、そういうものに触れることで仏教とは何かを理解する。それもお寺に泊まることの良さかなと思います」と西山さん。一つひとつの所作や使用するものに理由がある。そこに触れることで、知らない世界が一つ開くような面白さに出会えるかもしれません。
朝、目を覚ましたときに聞こえてくる鳥のさえずりや自然が奏でる音。春には桜が咲き、田植えを待つ田んぼの水に青空が映る。初夏にはアジサイが、秋には紅葉が色づき、お正月には新年を祝うたくさんの行事で地域から人々が集まります。お堂に差し込む光の入り方ひとつでも、この場所の見え方や感じ方が変わるかもしれません。日常から少し離れた空間で、五感が徐々に研ぎ澄まされていくのを感じながら、時間の流れや季節ごとの味わいを楽しんでみてください。
歴史あるお寺に泊まり、日本文化に触れる
お部屋は広々とした「客殿」と本堂の隣の「離れ」があり、どちらも落ち着いた雰囲気の和室でゆっくりとくつろぐことができます。冷暖房、キッチン、Wi-Fiなど、快適に過ごせる設備が整っているほか、ペットと一緒に宿泊することも可能。また、テントサウナを楽しむことができるのも大泰寺の特徴の一つ。宿泊を満喫するためのおすすめは、坐禅とサウナの両方を体験することです。
西山さん曰く、「体験時間が決まっているので、日帰りの場合はサウナか坐禅のどちらかだけを体験して帰られる方が多いです。せっかく宿泊していただくのであれば、前日の午後にサウナに入り、翌朝に坐禅をして帰るなど、両方を体験されることでより満足感が得られると思います」。
大泰寺での体験にテントサウナを取り入れている理由の一つも、サウナを体験することで坐禅で目指すところの「悟り」に近い感覚を得ることができるからだといいます。
大泰寺での宿泊は英語を話す海外の方や、海外のご友人がいる方にもおすすめです。西山さんは英語教師をしていた経験もあり、実際に宿泊した海外の方からは「疑問に思ったことを英語で答えてくれるのが良い」という感想も多く寄せられます。外国人の方にとっても、一歩踏み込んだ日本文化を体験できる珍しい経験になるでしょう。
宿泊、坐禅体験、テントサウナ、ほかにも写経やビーチクリーニングまで、法要などの住職としての仕事をしながら、新しいことにどんどん取り組んでいく西山さん。体験自体を楽しんでもらえることを大切にしつつ、「歴史あるお寺を、どうやったら持続可能な形で未来に繋いでいけるかと試行錯誤中です」とお寺や地域への思いを話します。
那智勝浦町は、日本一の高さを誇る那智の滝や温泉など、観光地としても人気のあるまち。観光スポットやアクティビティを楽しむのももちろんですが、喧噪から離れてその場所で過ごす時間を丁寧に味わう、そんな一味ちがった体験をしてみるのはいかがでしょうか。