試行錯誤を重ね、窯からつくりあげた備長炭
那智勝浦町から山奥へ車で30分。ゆるやかに開けた太田川を通りさらに山奥へと向かった先に、豊かな自然に囲まれた「小匠(こだくみ)」地区があります。道沿いに建つ家の一つをよく見ると「Mahoraja」と書かれた小さな看板。古民家を改装してつくられた、備長炭と絵画を展示する、知る人ぞ知るギャラリーです。
ここで展示されている備長炭は、ギャラリーから歩いて10分のところにある、山沿いの窯でつくられています。管理するのは平田聡さん。日々備長炭づくりに励みつつ、神話や自然を題材に色鮮やかな絵を描き続ける、絵描きさんです。奈良で家業を手伝っていましたが、30代後半に思い立ち那智勝浦町に移住してきました。備長炭づくりを一から学び、失敗を重ねながら少しずつ自分のスタイルを確立しています。炭窯も一から自分でつくったのだとか。
ずっしりと重い、山の芸術品
備長炭はウバメガシの木からつくられる、最高級の白炭です。和歌山県の田辺市で江戸時代に生まれ、それ以降名産品として紀州南部や四国等でつくり続けられてきました。火力の高さや火持ちの良さ、煙の少なさなど高い品質が特徴で、現在でも多くの料理人に重宝されています。手に持つと、細くて上品な見た目とは裏腹に、ずっしりとした重さを感じるのも、備長炭の特徴です。
「良いものができたときには、売りたくないと思ってしまいますね」と平田さん。備長炭は役に立つ商品ではありますが、一種の芸術としても捉えているといいます。中でもお気に入りのものは、ギャラリーで展示中。問屋さんに出荷するだけでなく、普通の生活の中でも使ってもらおうと、一般向けの販売も行っています。