自分で育てた野菜を食べ、自分で染めた服を着る。
「トウモロコシのひげを天日干しして、炒ってお茶にすると良いらしいんですよ」。そう言いながらホストの寿海さんが出してくれたお茶を飲んでみると、確かに、言われなければトウモロコシのひげだとは気づかないような、芳ばしくて良い香りがします。無農薬栽培なので、生のままサラダにすると水菜のような食感で美味しく食べられるのだとか。
寿海さんは群馬県のご出身。長野県で出会った大阪府出身の寿海真也さんと2013年に色川へと移住し、その翌年に夫婦で「農家民泊JUGEMU」を始めました。
農家民泊とは、農家さんのもとで寝泊りをしながら一緒に農作業をし、その土地の暮らしを体験することです。農家民泊JUGEMUには、全部で6つの畑があります。育てているのは、エンドウやレタス、玉ねぎ、きゅうり、スイカ、枝豆、白菜、大根など、全部で30種類ほど。それらを季節に応じて栽培しつつ、お米作りもしています。宿の裏手には、飼っているロバの「ガスパルくん」も。
「ロバのお散歩の体験もできるように練習中なんです。あと、いま一番好きなのは藍染ですね。染色液を作る最後に、本当はもうちょっと発酵を促してたら色が濃くなったはずなんだけど、もう嬉しくなってすぐ仕上げちゃったから(笑)。今回の液はあんまり濃い色にはならないかもしれないです。微生物まかせなんで、なかなか難しいですね」。
寿海さんが身につけている、空のような優しい色のTシャツも藍染したもの。毎回同じ色にならないというところにも、手作りらしい風合いの良さを感じます。かまどに薪をくべて、羽釜で炊くご飯。全体にまんべんなく熱が加わることで、お米一粒一粒が立ち、ふっくらと美味しく炊き上がります。薪風呂は「お湯が柔らかい感じがします。いつまでもぽかぽかあったかいしね。やっぱり木で焚くといいですね」と寿海さん。
色川の空気をからだいっぱいに吸い込んで、新鮮な明日を生きる。
日々の暮らしのなかで特に嬉しく感じるのは、作物を収穫するときだといいます。
「自分で畑に撒いた種がちゃんと実って、それが食卓に上がるまで。そのときの喜びはやっぱり大きいです。味も全然ちがいますもんね。あとは、その年の新米を初めて食べるときの一膳。あれはもう特別です」。
炊事、畑、染物、風呂焚き、そのほか生活に欠かせない日々の諸々。働いて稼いだお金で生計を立てるのではなく、生活そのものに時間をかける暮らしは大変そうでもあります。一方で、村の約半数の人がわざわざ選んで色川に来ていることを考えると、この村で暮らすことの心地良さを各々に感じているのでしょう。
寿海さんにとっての色川の良さを尋ねると、「自分でやることは本当に山のようにあって、大変だけれどもね。やっぱりストレスがないっていうのは一番大きいかな。自分のペースで休んだりもできるし、誰にあれやれこれやれって言われるわけでもないし。野菜はやればやるだけ結果になって返ってくるしね。充実感が全然ちがいますね」。
「みんな一人ひとり感じ方がちがうと思いますけど、なんかほっこりしに来てくれたらいいかなと思います。都会で疲れた人とかは、景色見てぼーっとしてるだけでも癒されるのでね。都会に住んでると、こんなご飯の炊き方もやったことないだろうし、そういうの楽しんでくれたらいいなと思います」。
宿泊は一泊から受け入れていますが、しっかりと暮らしを体験したい方には最低でも二日以上の滞在がおすすめです。季節によって体験できる内容も変わっていきますので、お泊りの際は「農家民泊JUGEMU」の公式サイトをご覧ください。自分に合った暮らし方が見つかるような、素敵な宿泊体験になりますように。