狩猟体験ツアーを始めた理由
色川で狩猟体験ツアーをしているのが、大学卒業後にUターンで那智勝浦町に戻ってきた原裕さん。大学で獣害の研究をしていたこともあり、獣害対策に特化した地域おこし協力隊(以下:協力隊)として働き始めた。その事業の一環として、獣害対策体験ツアーというものを作ったのが最初の形だという。当時は獲って食べるのがメインではなく、不要果樹の伐採や被害現場、防護柵の確認など、獣害対策の現場を見るのが主な内容だったそう。
当初は体験ツアーを継続するつもりでやっていた訳ではないそうだが、やっている中でおもしろみを見出していった。「都会の人に色川の暮らしに触れてもらうと、全然響かない人もいれば、すごく食いついてくれる人もいて。そこから色川のこと、そこに住む人のことに興味を持つきっかけづくりになっているなと感じ始めてからは、多分ちょっと楽しくなってきていて。そこから狩猟体験ツアーを形変えて前向きにやっていこうかな、と思い始めました。」
そうして、内容を変えつつ、新しく狩猟体験ツアーとして動き始めたのが2017年でした。
具体的なツアースケジュール
2泊3日で行うツアーになっている。基本的に「獲って捌いて食べる」というのはプログラムの中に入れ込んであるという。大まかなスケジュールとしては
<1日目>
PM:猟師さんと一緒に山に入る
ー山の状況説明や鹿がなぜ降りてくるのかの説明、罠の仕掛け
夜:ナイトツアー
<2日目>
AM:解体体験
PM:農家さんのところを回って地域の生活を覗く
<3日目>
AM:ジビエ料理体験
PM:振り返り
他の地域でも狩猟をやっていたりするが、色川でやる意味は何か
色川は那智勝浦町の中心部から40分ほど山奥に車を走らせたところにあり、買い物ができる場所も少なく、自分で野菜やお米を育てていたり、鶏から卵をとって暮らしている人が多く住む場所である。車を色川に走らせていると、囲いをしている畑や田んぼがほとんどで、時たま猿や鹿にも遭遇する。
日本各地でも、狩猟体験を行っている地域はあるという。その中で、色川でやる意味は、地域の人との関わりにある。だものみちの狩猟体験ツアーの特徴は、単に獣を獲って捌いて食べるだけでなく、色川の農家さんのところを2件ほど回ること。農家さんとの交流の中で、地域のことを知ってもらうのはもちろんのこと、獣害の現状を知ってもらうという一面もあるという。
「農家さんを訪問し、畑や養鶏場の見学をしたり、時には家におじゃまさせてもらったりする中で、参加者自身が今の暮らし方や自分の価値観について考えるいい機会になっています。農家さんに限らずですが、色川の日常や暮らしを狩猟や獣害という文脈で垣間見れるようにすることがここでこのツアーする意味なのかなと思います。」
最後の振り返りでも、農家さんとの交流について話題に出す人が多いそう。
解釈は参加者に託しつつも、自然と共存しながら生きる人(農家さんたち)との関わりが、狩猟というものを色々な方面から考えるきっかけになっているのかもしれません。
狩猟は手段の1つにすぎない
狩猟は、日本各地で行われています。一口に猟師といっても、趣味としての猟師、生活の一部としての(自分で食べるための)猟師、獣害対策としての猟師、色々なスタイルがあるという。それぞれスタンスが違うため、「なぜ狩猟をするのか」という問いに対してシンプルに1つの答えを出すことは難しい。
その上で、「獣害対策という切り口で話をすると、、、獣が里に降りてきて、畑や田んぼを荒らすと、その被害を防ぐために降りてくるやつを獲るという理屈にはなるんですが、案外割り切れるものでもなく。気持ちのどこかでは狩猟そのものの獣との駆け引きなどの面白さや、自給のための食糧確保の意味合いも含んでいると思います。
狩猟ツアーを主催している原さんも、基本的には獣害対策の一環で狩猟をしている方だが、だからといって積極的に狩猟をしていくというわけではないそうだ。「獣害対策って別に捕獲マストじゃないのよ。要するに畑の被害を防ぐっていうのが目的だから、獣を獲ることが目的ではないんだよね。場合によっては捕獲って意外と優先順位低くて。獣は食糧を求めて里に降りてくるから、彼らの餌となるものを里から減らすことが獣害対策では大事なんよね。」
生活の中で、田畑を荒らされたり、庭先まで獣がやってきたりすることが頻繁に起きている中で、ここ色川では多くの人が獣とは切っても切れない関係にある。自分たちで食べ物を育てて食べている人たちにとってはなおさら。人と獣の距離がとても近すぎる現状のなかで、人と獣がいかに共存していくか。そのことを考え続けることが重要だと原さんは繰り返していた。
狩猟体験ツアーをする上で大切にしていること
最後に、原裕さんが狩猟体験ツアーで大切にしていることをお聞きしてみた。
「ツアーやっている中で1つだけ意識していることがあって。あまり何も押し付けないというか。例えば、『こうだから捕獲は必要なんです』とか『命を殺めるのはこうあるべきです』とか変な説教的なこととか。自分の想いとかは言うけど、こうあるべきみたいなのは押し付けないようにしていて。それぞれ自然と見てもらっている中で、各々が感じたことをそれぞれが感じるままに受け取って、それぞれがそれぞれなりに整理する。それで考えていく、みたいな。そういうのは意識している。あまりそこに干渉しない、というか。やり方によっては半分誘導っぽいことになっている時もあるかもしれんけど、そういうのはしないようにしています。」
狩猟と一口に言っても、単純な答えがないことだからこそ、参加者それぞれが感じたものを持って帰って欲しいという想いでやっている原さん。普段の生活の中では感じることのできない「命をいただくこと」「獣(生き物)と共存すること」について、リアルで体感できる機会。あなたの人生の中で大きなターニングポイントの1つになるかもしれません。