原久美子さん

原久美子さん

「日本にこんなところがあるんだ!」棚田の原風景に感動した色川で、生産者さんを訪問して食の背景まで味わう、体験レストラン「Aima」をオープン。

東京で開催されていたイベントをきっかけに、初めて色川を訪れた原久美子さん。自然豊かな景色に魅了され、色川で出会った猟師の原裕(はらひろし)さんとの結婚を機に、2021年10月に色川へと移住しました。食べ物を生産する人とそれを食べる人。田舎の人と都会の人。その「間」を繋ぐ場所になればという思いで、色川だからこその体験型レストランAima(アイマ)を営みます。

色川のこだわりの産品に引き寄せられて。

-まず、ご出身と色川に来るまでのいきさつを教えてください。

出身は兵庫県西宮市出身です。4年くらい前の話なんですけど、その当時は東京にいて、コロナ前だったのでイベントとかにもよく行ってたんです。もともと食に関心があって、農業にも徐々に興味が湧くようになっていた時期に、サスティナブルをテーマにしたイベントがあったので参加してみました。

そこにはいろんな商品を並べているブースがあって、色川の産品を出品している人がいたんです。素材の味を大事にしてるような、こだわりの産品がすごいたくさんあったんです。お米にお塩、お茶、ゆずシロップ、梅シロップなどなど、一つの地域でこんなにこだわりのものを作っているところって珍しいなと思ってめっちゃ見てたんですよ。そうしたらちょうど色川で稲刈りをする一か月前だったらしく、その方が「来月稲刈りに行くから一緒に行こうよ」って言ってくれて。でも、初対面のおじさんだったんで一人で行くのはちょっと怖くて(笑)、会社の同僚を誘って3人で稲刈りに行ったのが最初でした。

東京からなので、車で10時間くらいかけて。寄り道もしながらなのでもっとですね。でもワクワクが先行していたのでその長い移動時間も苦じゃありませんでした。

色川の美しい棚田風景

-イベントでの出会いが色川を訪れるきっかけだったんですね。一度稲刈りに来てからどういう経緯で移住するに至ったのですか?

来る前は移住するなんて全く考えてもみないことでした。でも来てみたらすごく綺麗でいいところだったんで、いつかこんなとこに住んでみたいなとふわっと思ったんです。

その稲刈りって、全国どこからでも援農ボランティアを受け入れてくれる、2泊3日のツアーみたいな感じなんです。2泊目の最後の夜に、地域の方々に集まっていただいく交流会があって、そこで今の夫になる裕くんに出会いました。その時はほとんど喋らなかったんですけど、裕くんが展示会の出張など東京に来るタイミングで、一緒に稲刈りに行ったメンバーと飲んだりして。そのうちに付き合うことになり、結婚して移住することになりました。

-移住する際に、何か心配や戸惑いなどはありましたか?

いや、最初は何も知らないんで、ただ住んでみたいっていう勢いでした。ですけど、コロナ禍っていうのもあって、そんなに頻繁に行けない時期があって。その間に色々調べたりしてたんです。やっぱり地域にはその地域ならではの課題があって、自然災害とかも身近じゃないですか。だから、いろいろリスクはあるなっていう怖さもあり。でも、それよりも魅力の方が勝って、住みたいなと思いました。2021年の10月くらいなので、まだ1年経ってないですね。移住者のひよっこです。

写真左が色川出身の原裕さん

空にたくさんの星が見える場所で、日々を暮らす。

-色川の印象はいかがですか? 好きなところや苦手な部分、または都会暮らしとの違いなどをお聞かせください。

祖父母も住宅街住まいの人で、あんまり田舎に縁がなかったので、初めて来たときは「日本にこんなところあるんだ!」みたいな感じでした。すごく山深くて自然が綺麗で。特に棚田の風景は衝撃的でした。こんな美しいところが残されてるんだなぁ、と。川もすごい綺麗だし、数が減ってしまっているトンボがいっぱいいたりとか、なんか尊いなと思ったのが最初の印象でした。虫は苦手なんですけど(笑)。

東京にいた時に、コンクリートジャングルに耐えられなくて。西宮もわりと住宅街ではあったんですけど、ちょっと山寄りだったんで星が結構見えたんですよ。東京ではほんと見えなくて、星が消えてしまったように思えて。こっちに来たら天の川が日常的に見えたり、そんな状態が普段ある方がいいなと思ったんです。普段都会に住んでたら、お休みの日に旅行で自然のあるところに行ってリフレッシュしてってなるじゃないですか。でも、毎日自然があってたまに都会、という方が私はいいなと思って。

地域のおじいちゃん、おばあちゃんと喋ることも都会ではあんまりないじゃないですか。そういう家族以外の人たちとの関わりが新鮮で楽しいです。農家民泊のJUGEMUさんとかも面白いですよ。家がご近所さんなんですけど、このあいだ友人が来てたんで一緒に泊まらせてもらったら、ごはんもおいしくて最高でした。

-地域の人の雰囲気や印象はどんな感じですか?

個性的な方が多いと思うし、周りの方もよくそう言ってます(笑)。多様で多才な感じ。自給自足してる人も多いし、完全にではないですけど、この村全体が住んでいる人たちで完結しているというか。大工さんがいたり、木こりさんがいたり、塩を作ってる人がいたり。農家さんはいっぱいいるし、梅とかゆずの製造所があったり、猟師さんがいたりとか。バランスがすごいなって思ってます。近場の人同士で、悩みが解決するイメージもありますね。私のお店(Aima)も夫を始め、地域の方に作っていただきました。みなさん自分でできることが多くてすごいんですよね。

「間」を繋ぐ体験レストランAima

-ここのお店は去年クラウドファンディングで資金を集めて、Aimaという体験型のレストランを始められましたよね。屋号の由来や、お店のコンセプトを教えていただけますか?

コンセプトが生産者さんと食べ手の間を繋ぎたいっていうところだったり、都会と田舎の人が繋がる(間の)場所にしたいという思いでAimaにしています。内容は、お店の近隣の農家さんを訪問して野菜を収穫させてもらったり、猟師さんを訪問したりして、食べ物の背景を知っていただいた上でそれを料理して食べるという感じです。

私自身が東京から遊びに来ていた時に、このあたりではお茶とかお塩とか梅やゆずを始め、海の方には生マグロもあって、すごく美味しい産品がたくさんあるけど、それをギュッとまとめたレストランってないなと思って。あったら行きたいのになと。そんなことを思っていた矢先に裕くんがジビエの解体処理施設をつくっていたので、「(その解体処理施設の横に)あ、自分でつくったらいいのか」みたいな発想で始まりましたね。

平飼いの養鶏農家さんのたまごを使った、たまごかけご飯。Aimaでは養鶏農家さんのもとでたまごの収穫体験をするところから始まります。

あと、こっちに来る前に京都で野菜に関わる仕事をしていて。以前から思っていたことではあるんですけど、日本では食べ物の価格が安すぎるというか、農業って持続可能じゃないなみたいなことを感じていて。実際にスーパーや百貨店で野菜を販売したこともあるんですけど、やっぱり消費者の方の意識で「野菜って安いもんだ」って思われてると感じたんですよね。京都にいた時は、スーパーのバイヤーさんとか流通からアプローチすることで、もう少し適正価格の流通になったらいいなって思ってたんですけど、今の仕組みとかいろいろ考えると私じゃ限界があるなと思って。少しずつでも消費者の方に現場を見てもらって、農業の現状を知ってもらうことをしていきたいなと思ったんです。

それで、これまでの流通の経験と、「自分で作ればいいのか!」という思いつきのアイディアが重なって、食べ物の価値も知ってもらえるストランにできたらな、という感じで今に至りました。

色川の農家さんたちが育てたお野菜たち

体験をしてみれば、きっと普段の食事も一味ちがった味わいに。

-何かをやってみたいと思うのと、実際にやってみるのとでは全然違いますよね。お店を実際に始められたのが素敵だなと思いました。

地方だと、都会よりは少しやりやすさはある気がします。土地が安かったり、空き家があったりとか。都会で同じことを思っても、絶対アイデアだけで終わってたタイプなので。他にも、そういう環境に支えられてる部分もあると思います。那智勝浦は起業してる人が多くて、新しいお店とかもポツポツできてたり。そういう先輩方の影響は受けてますね。

一つ盲点だったのは、ここをつくったらお客さんを近くの宿泊施設に案内して地域で連携できればと思ったんですけど、ゴールデンウイークの時に周りは満室で泊まる場所がなくて。テントサイトくらいはつくろうかなと思っています。

青々とした山を背に建つ、外観も内観もオシャレな体験レストランAima

誰がわるいとかじゃなくて、普通に暮らしてたら農業のことを知る機会ってあまりないじゃないですか。よっぽど何かきっかけがないと。だからあえて、普段こういう田舎の暮らしから遠い世界にいる人で、かつ食の背景が見えにくくなっているなかで農業の実情にちょっと興味があるような方に、知っていただけたらと思います。でも、未だにお客さんと畑に行ったら「ああ、きれい!野菜かわいい!」とか言って、お客さん以上にテンション高いの私なんですけどね(笑)。

-色川ならではの楽しい体験になりそうですね。お話をお伺いして、いろんな方々が繋がり合って暮らしているようすが伝わってきました。久美子さん、楽しいお時間をありがとうございました。

体験レストランAimaの記事はこちら

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