原裕さん

原裕さん

地元色川にUターンして獣害対策に取り組み、ジビエ肉の解体処理施設「だものみち」をオープン。「獣との良い共存関係」を目指す。

那智勝浦の色川地区で生まれ育った、原裕(はらひろし)さん。熊本の大学を卒業後、色川に戻り、獣害対策に従事してきました。現在は獣害対策で捕れたお肉の活用や、山の現状を知ってもらうための狩猟体験ツアーなどを企画しています。2020年にはシカやイノシシのお肉を資源として循環させるべく、解体処理施設「だものみち」を立ち上げ、活動の幅を広げています。

「なんとかなる」スタイルで進む。獣害対策から解体施設まで。

-普段はどのような活動をされているんですか?

いろいろですね。メインはジビエ肉の解体処理施設「だものみち」と、獣害対策関連の活動です。田んぼの季節は、田植えとか田んぼの準備から始まり、収穫するまではわりと田んぼのことでいっぱいです。あとは、梅や柚子とかの加工品を作ってる団体で、草刈や施肥、剪定など外作業全般を手伝っています。肉が獲れた日は「今日は解体施設で裁こう」みたいな感じで、時間が決まってない仕事が多くあるので、予定をきっちり決めずにその日の風に乗ってみたいなスタイルで過ごしていると、なんやかんや一日が終わっています。

思いつきでやるんで計画がないんですけど、あんまり考えてるとやれなくなっちゃうんですよ。だものみちを始めるときも、細かいこと考えず、とりあえずやった感じもありますね。「なんとかなるか」みたいなスタイルなんで、たまに壁にぶち当たります。なんとかなったと思って、実はなんとかしてもらってるみたいなこともめっちゃくちゃあるんですけど。

-獣害対策ではどのようなことをされているんですか?

基本的には「だものみち」でお肉の解体をしています。ほかにも狩猟や里山の体験のイベント、ジビエを活かした「ラーメンひろし」でのイベント出店など、不定期のイベントもしています。鳥獣害対策協議会っていう、色川の獣害どうしよう? みたいな会の事務局もしています。地域の獣害対策は地域起こし協力隊がメインでしているので、現場の対応は協力隊がやるんですが、相談役的な感じのポジションで現場に行ったり話を聞いたり、いろいろしています。

イベントで、色川の新鮮な有機野菜とイノシシ出汁の「色川ラーメン」を提供

-解体処理施設「だものみち」について教えてください。

受け入れるのは、鹿と猪ですね。この辺は鹿の方が多い地域なんですが、最近病気で猪が減っているので、もともと8割が鹿だったのが今は10割になっていますね。品質的には、いろんな要因があって個体によりばらつきがあります。どんな品質のものも全部受け入れるんですが、捕獲したと電話かかってきたらすぐに行くようにしています。どんな状態で捕獲されたか見ることで、その後の処理を判断します。できるだけ人間用の食肉として売れるように処理したいんですけど、少し臭みのあるようなものはペットフードなどにしています。

-だものみちの活動を始めるまでには、どのような経緯があったんですか?

大学4年の時に狩猟免許を取ったんです。狩猟をしたかったからとかじゃなくて、色川でも獣害が深刻な問題になってきていて、地域の人や農家さんとか大変やなって。獣害対策は農家さんだけではなかなか難しい。片手間ではなかなかできるもんじゃないから、専従でやってくれる人が必要になっていたんです。大学4年の後半くらいに、今でいう地域おこし協力隊みたいな「田舎で働き隊」っていうのがあるから、それを使って帰って来ないかと声がかかって帰ってきました。

大学に入ってすぐくらいの時から、漠然とですけど色川に帰ってきたいというのはありました。でも、やっぱり帰ってきた時に何か役に立てる存在になっているっていうのが自分のなかで条件やったんです。それで、大学4年の一年間に獣害対策の勉強をして。知識はそれなりにあったんで、一応自分のなかの条件をクリアしたうえで帰ってきたという感じです。

原さんが運営する色川の小さな解体処理施設「だものみち」

なので、僕の場合は狩猟が目的ではなくて獣害対策が入り口なんですよね。必ずしも捕獲しなければいけないってわけではなくて、たとえば柵を設置したり、どうして里に獣がおりてきてるかっていう原因をみんなで突き止めて、そのための対策のアクションを起こしたり。そんな仕事を地元に帰ってきてからやって、当時は施設とかもなかったんで、獲れたお肉は自家用にしていました。

でも、結構獲れる時もあったりして。これ売れるようになったらいいね、みたいな話をしているなかで、解体施設を作れたらといいなあと。2年目か3年目くらいから僕も思ってたし、周囲のみんなも思っていて。それで「できたらいいな」「やりたいな」と言っているうちに、自分の中でモチベーションがなんとなく上がってきて、解体施設をつくるまでになりました。

動き、つながる。Uターン後の変化。

-大学に出てから4年経って、帰ってきてから何か地域の変化を感じたりしましたか?

移住者が増えてるなって思った記憶があります。全員知っているっていう状態から、知らない人が何人かいるみたいな。それが結構、僕のなかでは大きな変化だったんですよ。なんていうんですかね。寂しさなのか、ちょっと置いてかれた感というか。すぐ全員知るようにはなるんですけどね。

その4年で、色川自体は変わんないですけど、僕が見てた世界が変わりました。4年前は高校生だったから、大人との絡みはありませんでした。それが同じ立場になって具体的に何かをするというのは劇的な変化ですよね。今まで見てた色川とまた何か違って見えました。いろんな大人と話し、自分で決めて、物事が動いていく。いろんな人と協力していくのが楽しくもありました。

山で狩猟の準備をする原裕さん

-施設ができてから変わったことはありますか?

めっちゃ変わったっていうのはないんですけど。捕獲に対してモチベーションが上がった猟師さんがいたりとか、狩猟免許取る人が増えたりとか。あとはもうお肉が売れるようになったんで、地域の喫茶店とか、町の飲食店とか、知り合いのつてで繋がった飲食店に卸しています。

お肉を売ることで人との関わりが増えました。地元の人だけじゃなく、地域外の人たちとの繋がりも増えました。この施設を作ったことによって、関わる人が増えたっていうのが一番大きく変わったことですね。そこから新しい展開とか、いろいろ生まれるようになってきています。

人間と獣が共存できる未来へ向かう「だものみち」

-まだ途中だと思うんですけど、始めるときにイメージしていたことは実現できていますか?

だものみちは「循環」がキーワードになっていて、資源の循環と、人とか情報の循環が生まれるきっかけというか、拠点になればいいなと思っていました。その関係人口的な人の輪が、まだ広がってきつつある段階ではあると思うんですけど、ちょっとずつ広がってきているので、その辺りは初めにイメージした感じで動いてるなっていう感じがあります。

資源の循環に関しては、肉はまあもちろん売れてるんですけど、僕は残渣(ざんさ)の処理をちゃんとして、ぐるぐる循環させられるようにしたいです。今はクリーンセンターで燃やしてるんすよ。それは心苦しいところがあるので。鹿の残渣の堆肥は、法律的に売ったりとか絶対できないんで、なかなか難しいとこがあるんですけど。畑に返したりしたいですね。

-「循環」というキーワードについてもう少し聞かせてください。

実は、循環とか持続可能みたいなのが大事だと頭のなかでは理解してるけど、自分事としてはあんまり捉えられてなくて。もっと具体的に言うと、生活と密着していないんです。自分の生きざまというか。実際にやりながらちょっとずつ捉えていっている感じなので。たぶん、こんなことがしたいっていうのを頭で考えて、どこかに拠点を置いて活動していたらちょっと違ったと思うんですよね。でも、もともとここで生まれて、気づいたらこんなことやってるという感じなので、そこの違いはすごいある気がしてて。単純にここにいて、何かをやれてるっていうこと自体が楽しかったりするし。

とはいえ大事やと思うんで、最終的には生活とリンクさせて、自分の言葉として循環っていうのを言えるようになりたいなと思っています。そうやってちゃんと継続していけば、いつか理想の“だものみち”ができあがるかなと。

「だものみち」って「道」なんですよ。獣道的なやつ。自然とか、獣とか人、すべてが良い感じに共存できる世界があったとしたら、そこにたどり着くための道が「だものみち」。その過程というか、そこまでの道のりみたいな意味なんです。「だものみち」を継続させて、理想の環境に近づけたらいいなと思っています。

-これからどうしていきたいですか?

獣との良い共存関係を築くっていうのが、一番大きなところにあるんですけど。そういったことを考えるうえで、山のありようとかにも興味をもってやっていきたいです。動物が棲みやすい山づくりとか。いろいろ考え続けていきたいですね。

これは活動を始めてわかったというよりは、そもそもわかっていたことなんですけど、山に餌がなくなっていることと、里と山との境界がすごくあふやで彼らが近づきやすい環境が生まれていることで、獣害も起きやすくなっています。獣害が起きるメカニズムは、たぶんわかってはいる。わかってはいるんですけど、実際に対策をしていくためには難しいところもあります。

獣害の対策や山のあり方については、地域の協議会やみんなでやっていきたいですね。「だものみち」としては、お肉の有効活用、資源の循環だったり、関係人口を増やすような取り組みをこれからもやっていきたいと思っています。

「だものみち」の記事はこちら

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