el camino del poeta|deepでdopeな那智勝浦を

el camino del poeta|deepでdopeな那智勝浦を

居酒屋/地元の食材/詩人の店主

紀伊勝浦駅から歩いて5分ほど。大通りから少しはずれに歩いていくと、独特な雰囲気を醸し出しているお店が目に飛び込んでくる。それがel camino del poeta。地元の食材を使ったこだわりのメニューを提供しているだけでなく、思わず素の自分が出てしまうような空気感が漂う店内。「命につながる」「こころの解放」をテーマにお店を営むel camino del poetaを取材しました。

『el camino del poeta』という名で覚悟を表す

お店の外観から異様な雰囲気を放つ『el camino del poeta』だが、店内を覗き込むとその異様さは一層濃くなる。剥き出しの流木や様々な種類の置物、レコードや本だけでなく、壁には詩も書かれている。そこが飲食店であることを忘れてしまうような、別の国や世界に飛び込んできたような、そんな雰囲気が漂う店内。まずはお店の名前の由来を聞いてみた。

「el camino del poeta」を直訳すると「詩人の巡礼道」。世界には多くの巡礼道が存在する。その中でも世界遺産に登録されているのは、那智勝浦町にも多く点在する熊野古道と、スペインにあるサンティアゴ・デ・コンポステーラのみ。

熊野古道もサンティアゴ・デ・コンポステーラも、生き死にを問いながら人々が何かを信じて歩いてきた道だという。もともとヨーロッパ圏の観光客をターゲットとしていたこともあったエルカミ。ヨーロッパの方々にとって「el camino del poeta」という言葉は、「これがお前の覚悟なのか」という感覚だと店主の由明(よしあき)さんは言う。「命につながる」「こころの解放」をテーマとし、人と深いところでの本質的な関わりを大切にお店づくりをしていることから、この名前をつけたと語っていた。

いのちにつながる体験の拠点づくり

那智勝浦町出身のさゆりさんは、東京で由明さんと出会った。子どもも生まれ東京や鎌倉で暮らしていたこともあるお二人。鎌倉もとてもお気に入りの場所だったというが、それでも那智勝浦でお店を開こうと思ったのはなぜだったのか。

きっかけは、由明さんがお仕事の一環で子どものカウンセリングを行った時に、スーパーでパックで売っている魚の切り身が海をそのまま泳いでいると本気で信じていた小学生に出会ったこと。「それだけ命と繋がっていない状態が本人の中にあるがゆえに感情とかまでいけていない。要は、ざわざわとか自然と繋がっているとか、人と繋がっているっていう命としてのものがあって、感情って揺さぶられるんだけど、そこに至る手前になってしまっている。」由明さんは、カウンセリングの仕事を数多く行ってきたが、そもそも命の分断が起きていることに直面してしまった。

一方、那智勝浦では、命と繋がる瞬間が多いと感じている由明さん。最初は、那智勝浦の自然の中で「いのち」をテーマに、都会の子どもや親と一緒に遊ぶツアー(熊野いのちにつながる旅)をしていた。由明さんは人間関係や心の部分でのアプローチ、さゆりさんは食を介してその人を繋げる、という役割分担の中で、お互いが持っているものを出し合って作ってきたという。

そうやって人と自然と関わっていると、親子関係が変容していくポイントはたくさんあったが、実際にこの土地に足を運んでもらうための拠点を作りたいという想いと、那智勝浦の混沌とした土地の力や強さを具現化したいという想いでel camino del poetaを勝浦に作ったそうだ。ちなみに、店内を覆い尽くしている装飾は、土地の素材を拾ってきて作ったという。

また、那智勝浦町出身だが1度は県外に出ていたさゆりさん。元々はこの町を離れたくて県外に出た人の1人だった。東京や鎌倉での暮らしも経験をし、それぞれの場所ごとに魅力はあったという。しかし、東京で由明さんと出会い、この町について気付かされたことが多かった。「私が気づいていなかった気づきだったり、魅力っていうのを私自身が1番信用している人から改めて再発見させてもらった。私が知らずに当たり前だと思ってきたことが当たり前じゃないんだよっていうのを教えてもらって、この町の素晴らしさに30歳過ぎて知ったんだよね。」と笑顔で話していた。お話を伺うことでより一層、お二人がこの町で感じている魅力や深いものによって、このお店が作られていることを強く感じる。

エルカミよあそびでこころの解放を

コロナが明けた時のお店の在り方も模索しているという。その中でも定期開催をしていて、評判も良いのが「エルカミよあそび」というイベント。地元で普段は洋菓子屋さんをしている方が絶品のシュウマイを提供したり、炭焼き師さんの絵のギャラリーをしたり、雑貨屋さんがDJをしてくれたり。表と裏の顔、本音や肚の底での時空間が心地よいグルーヴとなり、心を解放していく。

「旅をしていると、そこに行ってよかったっていうのももちろんあるんだけど、それよりもこの人に深く会えてよかった、もう1回あの人のところでこれがしたいって言って何回も来てくれる人たちがすごくいるんだよね」とさゆりさん。旅をしている人たちがエルカミで食事をすると、土地の人と深く絡むそう。その関わりが熱いものに変わっていき、時には涙する場面にも遭遇するという。

由明さんはこう語る。「土地の人のあたりまえが、都会の子どもの宝物になる。土地の人とめっちゃ遊ぶことが、子どもたちの心の解放につながる。その体感がある。もっと理想を言えば、その流れを循環することが、土地の人たちの再発見、プライドにつながる。子どもたちの育つ故郷が、より胸をはれる場所につながるイメージがある。おこがましくも、ありがたく、そんな夜がたくさんあるんです。そんな橋渡し、つながりを創るのも僕らのできる那智勝浦への貢献、役割だと想っとります。」

オープンしてすぐコロナウイルスが蔓延したおかげで、この2年間は土地の人と素を出して深く関わることができたことが、このイベントに繋がっているという。

「おもしろいよ。仮面被ってさ、感情に蓋してる人は都会にやっぱそういう人多いね。だけどこっちにどっぷりおって、やっぱこっちの人たちおもしろいんだよ。感情でもなんでもむき出しだし。(笑)だって詩人がやっている店なんて、わけわからんじゃん、向こうにとっても。全部説明するし、こういうつもりでこうやっとってって。でもちゃんとね、言葉より超えたもので、やれるものがあるので。この土地は気持ちいいしおもしろいっていうかね。」

ただ、単におもしろいことだけをやればいいのではない。それでも謙虚さを決して忘れない由明さん。「礼儀や仁義は大事だよ。まだ俺は本当に新参者だからさ、土地の。本当そうですよ。だから、1個1個、1からなんとかやってるつもりです」と。人の繋がりや信用がないと続いていかない。だからこそ、ここには人が集まるのかもしれない。

これまで2人が暮らしてきた場所を考えても、土地や人も全部ひっくるめて、この町が冗談抜きで世界の中心になることを2人は信じている。もともとは「よそ者」である由明さんと、地元の人であるさゆりさんの2人の視点があったからこそ、見えたり感じたりしているものがある。妥協せずに、でも地に足をつけながら着実に、この町のエネルギーを集め放出している。

日常から逸脱し、ほんとうの自分に還る。エルカミよあそびは、そんなエルカミの在り方に欠かせないイベントになっているのではないでしょうか。

誰かのためを想って作る手料理

エルカミで料理を作るのは決まってさゆりさん。実家が代々100年以上続いている魚屋さんということもあり、幼少期から商売の難しさや生きているものをお金に換えるという商売を目の当たりにしてきていた。「今日売れんかったら明日には腐ってしまうっていうものを、いかに1番美味しい状態で人に食べてもらうかっていうことを提供して、それをお金に換えることで私たちが生かされている。そんな中で代々あーしたらいい、こうしたらいいっていう、その時代に合わせた試行錯誤が絶対あった中で成り立っているはずなんやよね」とさゆりさん。お店を始めるまで、飲食店で働いた経験もなければ、調理師免許も持っていなかったという。それでも、食材へのリスペクトやこだわりがあるのは、身近に試行錯誤してきた人がいたから。

そんなさゆりさんの料理で興味深いのが、まぐろや魚介が有名なこの町で、他のお店と同じ料理やメニューがひとつもないこと。まぐろはもちろん、ヒオウギガイやサザエ、ウツボなど、使っている食材は他のお店でも見たことのあるものがほとんど。特にまぐろは観光資源であるし、伝統産業であるため継承していくことの大切さを感じている一方で、他と同じメニューを出すのではなく、選択肢の1つとして新しい選択肢があったらおもしろいのでは、と考えているそうだ。また、固定のメニューはなく、その日にある食材でメニューを考えているのもおもしろい。

「那智勝浦は魚介の旬がある中で、『今これがあるから食べてほしい』っていうものを作りたい。そして、根本的なスタンスとしては、これしたら当たるとかお金になるとかではなくて、私は1番は子どもに食べてもらいたいし、繋げていきたい。この子たちに紹介したり、出したりしても恥ずかしくないもので、食べてもらえるものを出したいなっていう思いがすごい強くて。誰かのためを想って作る料理が1番作りたいし基本的には子どもたちとか家族に食べてもらいたいものがメニューになっている。」

その人が好きなもの嫌いなもの、食べれるもの食べれないものを把握して料理を作ったり、利き手によって箸の置き方を変えたり。そういうことまで1つ1つ気にかけながら、「どうしたらこの人がこの空間で居心地よく自分を解放していられるか」というのを思いながらお店に立っているという。食材のこと、お客様のこと、お店のこと、家族のこと、さまざまなことに想いを巡らせているさゆりさんの手料理。お店の名前や元々のターゲット層がヨーロッパということもあり、ライスとナマモノだけでなく、オリーブオイルやパンなど欧米料理と日本料理の組み合わせのメニューも他とは一味違う料理を楽しめるポイントです。

本日の1品!

『炙り真鯛 ええ塩梅のせ』

前述にもあるが、エルカミでは基本的に食材が1番おいしい状態でお客様に提供される。インタビュー当日にいただいたのは、炙り真鯛のええ塩梅のせ。歯ごたえがあるのに柔らかいだけでなく、魚の味がしっかりしている。というのも、真鯛は当日のお昼13:00ごろに絞め、提供される少し前に切り身にされていた。何もつけなくても十二分に美味しいのだが、添えられている薬味をのせることで、いろいろな種類の味を楽しむことができた。真鯛に添えられている薬味は、今年につけた白梅、その横にあるのが梅干しを漬けたときに出る梅酢を天日干しして作った塩梅、そしてワサビ。なんと、塩梅は鯛に合わせるために、毎年地元の人が特別に作ってくれているそう。1つのメニューでも複数の味を楽しめるので、どの味が1番好きか見つけてみるのも楽しいかもしれません。

店舗情報

Information

  • el camino del poeta

  • 店舗情報

    通常営業:木金土 19:00-23:30

  • 電話

    070-4087-6762

  • メール

    なし

  • アクセス

    〒649-5334 和歌山県東牟婁郡那智勝浦町大字勝浦333

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