半日かけて食の背景を知った上で、じっくりといただく夜ご飯。
作物やお肉の生産者さんと、それを食べるわたしたち。色川の人と、都会から訪れる人。体験レストランAimaの屋号には、その間を繋ぐ場所になればという、兵庫県出身のオーナー原久美子さんの思いが込められています。夜、テーブルに並ぶのは、色とりどりの採れたて野菜や、新鮮なジビエを使ったお料理。普段であれば、美味しそうなお料理を口に運んで、お腹も心も満たされて終わりというところですが、たんに食事を楽しむことがここでの醍醐味ではありません。Aimaでは、半日がかりの体験を通して、これからいただくものが食卓に並ぶまでの背景に触れていきます。
体験内容は、お野菜や卵の収穫体験から始まり、猟師さんのもとで鹿などの野生動物の解体を見せていただいた後、それらを調理して食べるというのが基本の流れです。自然相手であるため、メニューはその日によって異なりますが、前菜、スープ、鹿のレバーペーストとバゲット、鹿肉のステーキ、卵かけご飯、そしてデザートの6~8品ほど。
「何料理かと聞かれたら困る感じです。洋風かと思いきや卵かけご飯が出てくる、みたいな」と久美子さん。料理のジャンルではなく、できるだけ素材を活かして美味しい状態で食べてもらえたらと話します。
Aimaでの食事は一期一会。その時々の状況を、ありのまま楽しむ。
「最初は色川だけで野菜がそろうか心配だったのですが、そうでもなくて。むしろこういう野菜がほしかった、っていうのが実際に多くて。コールラビとか、パクチーのお花、赤玉ねぎ……。色川だけで十分そろいます。農家さんが多様なので助かっています」。
笑顔で話す久美子さんからは、本当にお野菜が好きなのだということが伝わってきます。一方で、季節や天候に左右される作物や、家畜ではなく野生で生きている動物を相手にするからこその難しさも。
「以前お客さんが来る直前に鹿も猪も獲れなくて、本当に冷凍庫がすっからかんになっちゃって。猟師さんが罠をたくさんかけるなどで頑張ってくれて、ようやく間に合ったことがありましたね。基本は色川で獲れたジビエをご提供したいけど、できない可能性もゼロではないです。また、季節によっても味がちがいますし、『前に食べたものと同じものを食べたい』とか、『SNSの写真と同じものを食べたい』というよりも、自然のありのままや季節の移り変わりを楽しんでいただけたらと思います」。
久美子さん曰く、色川を訪れる際は2,3日以上の滞在がおすすめとのこと。「先日友だちが来てくれたんですけど、1泊だったので『ぜんぜん時間が足りないね』と言っていて。車で那智の滝に行ったり、いろんなところを見てもらうほうが、地域の良さもわかると思います。かつ、車で来てもらえたらより過ごしやすいと思います」。
大きなスーパーやコンビニがある町の中心地までは、自動車で片道一時間ほどかかります。夕食に予定していた素材がそろわなければ、あるもので間に合わせる。一般的なレストランをイメージして行くと戸惑うかもしれませんが、スーパーやコンビニで食べ物が簡単に買える日本において、食べることのリアルを少しでも感じられる貴重な体験になるはずです。